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わたしと美希ちゃんは二人に別れを告げると、いつもの帰路へ歩を進める。 「今日はどうなる事かと思ったわよ。」 「あのノーザってゆう人、わたし……怖い…」 ラビリンスから送られてきた最高幹部、ノーザ。 わたしたちはふと、不安に襲われる。 けれども、何度もその不安や恐怖からわたしたちは這い上がってきた。 自分たちの可能性。わたしたちの役目。希望は捨てちゃいけない。 ―――私、信じてる――― 「ねぇブッキー。これからちょっと寄り道しない?」 「えっ?」 「アタシの読者モデルの最新号、実は家に届いてるの!」 「ほんと!?でもね…」 「ん?用事あるの?」 「実は……」 美希ちゃんのお母さんにお願いして、こっそり届けてもらってたり。驚かそうと思って。 だからほんとは今日、誘うのはわたしの方な訳で。。。 「ママったら呆れちゃう…。なーんにも言わないんだもん。」 「そりゃそうだよ…。内緒にしといてってお願いしたんだもん。」 さっきまでの戦いの事や、不安や恐怖なんて美希ちゃんと居れば どこかに飛んでっちゃう。 わたしたちの調子も元に戻ってきたようで。自分の心があったかくなるのがわかった。 たまには、ラブちゃんやせつなちゃんみたいな関係に便乗したいなって……。 「おじゃましまーす」 「何か持ってこようか?」 「ううん。それより、早く見せてよ!ってアタシが言うのも変だけどね。」 すっかり読者モデルとして活躍してる美希ちゃん。それを見るのがわたしの楽しみ。 普通なら憧れちゃうんだけど、美希ちゃんはすぐ手の届く……。 ――――大切な人 「この洋服、秋用にしてはちょっと派手すぎてアタシは嫌だったんだ。」 「そなの?とっても似合ってるけど?」 「わかってないわねー。」 「うーん…」 「アタシが着たかったのはき・い・ろ。」 「黄色?」 「ほら、次のページ」 開かれたページには、鮮やかに着飾れた黄色の美希ちゃんが。 「わぁ~。とっても似合う!」 「でしょ!大好きな人のイメージカラーよ。それも秋とバッチリ!アタシ、完璧!!!」 嬉しくて。思わず、わたしは美希ちゃんに抱きついちゃって。 あ、ラブちゃんだったら覆い被さっての方が正しいかも…。 「ちょ、ちょっとブッキー。」 ビックリする美希ちゃん。でも、わたしは笑っているだけ。 「もう、なんなの?笑ってばかりで。変よブッキー。」 と言葉にするも、わたしを見つめる美希ちゃんの瞳はうっとりしていて。 なにをするわけでも、話すわけでもなく、体を寄せ合う2人。 しばらくして、どちらかが一方の名前を呼ぶ。 しかし、眠っている事に気付いて、優しく微笑み、自分も再び体を預けて目を閉じる。 ガチャ 「祈里ー、もうすぐご飯………。くすくす…、仲がいいのね二人とも。」 2人の幸せそうな寝顔を見て、そっと毛布をかけてくれたお母さん。 後々、話を聞いたらちょっと恥ずかしくて。 秋はわたしの季節。 山吹色はわたしたちの心をあったかくしてくれる。 「今度は人の少ない時間だけにするから…」 「いきなりなんだもんブッキー。勘弁してよね!」 「でもラブちゃんとせつなちゃんだって…」 「ま、負けてられないわね!」 ~END~
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せつなも学校に通うと言う事は、当然こんな展開もあるよな? ♀「あのっ東先輩っ!これ受け取って下さい!」 せ「?これは…手紙?」 ♀「ら、ラブレターです……///」 せ「!!!(ラブからの手紙ですって…!?)」 せ「ありがとう!」 せ「(何て書いてあるのかしら…wktk)」 『好きです。付き合ってください』 せ「きゅあああああああん(萌)!!!!!」
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するりと暗闇に飲み込まれる様に意識が途切れる。 ぽっかりと浮かび上がる様に暗闇から意識が吐き出される。 眠りとはそう言うものだとずっと思ってきた。 訓練、任務、分刻みに決まりきった日常。鉛の様に重くなった体ごと 意識が泥沼に沈んで行く、ただ脳と身体から疲労を追い出す為の作業の 一つに過ぎなかった、深く、短く、暗い眠り。 中途半端に浅い眠りはいつだって碌なものじゃなかった。 悪夢は目覚めても、現実はその続きでしかなく、多少なりともマシな夢は、 目覚めた後に砂を噛む様な不快感を、渇いた口に張り付かせるだけだから。 だから、夢など見ないよう、精一杯体を痛め付ける。 毎日、毎日、他には何も考えずに済むように。 目を閉じれば、一瞬で闇が次の朝まで連れて行ってくれるように。 … ………… …………………… 「あ、ごめん。起こしちゃった?」 目覚めると、ふわふわした明るい色の髪が顔のすぐ横で揺れていた。 せつなの手を握ったり、自分の手のひらと重ねて大きさ比べをしたりして、 ラブが遊んでいる。 「せつなの手、ちっちゃくてカワイイ」 「…大きさなんて殆ど変わらないじゃない」 ラブの柔らかな指で手を弄ばれる。 温かな血の通った感触。また眠りに誘われそうだった。 その温かく柔らかな手が頬を撫で、額に触れて来る。 手をどけた後は、コツンと自分の額をくっつける。 「うん、熱は下がったね」 よかったよかった。そう、微笑むラブにせつなは苦笑いを返す。 手のひらで熱を見たなら、わざわざ額までくっつける必要は無いだろうに。 「ずっと一緒に寝てたの?駄目じゃない、移るわよ」 そう言うと、ラブは少し驚いた様に目を見開くと、思い切り抱き付いて ぐりぐりと頬を擦り寄せる。 「こらこら…」 「だってぇ、せつなホカホカで気持ち良かったんだもん」 「もう。私はカイロ代わり?」 「ウソウソ!いいじゃん、風邪でも一緒に寝たいんだもん!」 「…だから、移ったら困るでしょ?」 「移ったっていいよーだ!」 だって、そしたらせつなが看病してくれるでしょ? 「…移しっこしてどうするのよ?」 「いいじゃん!幸せゲットだよ?!」 眠っている間、何か夢を見ていた。熱のせいか、あまり良い夢では無かった気がする。よく思い出せない。 けれど、そんな事はどうでもよかった。 悪夢なんて、目覚めてしまえばそれでお仕舞い。 幸せな夢も、目覚めた後で辛くはならない。 今は現実の方がずっと豊かな彩りに溢れているから。 もうどんな夢も恐くない。目が覚めればあなたがいてくれる。 「…朝食、私が作ろうかな」 「駄目!」 「どして?」 「病み上がりって言葉知らないの?今日一日は熱がなくてもお利口にね」 「はぁい…」 温もりに包まれていると、また眠気に誘われて来た。 微睡み出したせつなを見て、ラブは優しく囁く。 「もう少し寝てなよ。朝ごはん、出来たら起こすから」 「…………ん………」 ラブの短い言葉も聞き終わらない内に、とろとろと意識が揺らめきだす。 愛しい温もりが側にあれば、眠る事はこんなにも甘やかなものなのだ。 ラブはせつなが完全に眠りに落ちるのを見計らい、そっとベッドを抜け出す。 起こさぬ様に、頬と唇を軽く啄んでから。 せつなが、夢の中でも幸せでありますように。 そして、目覚めた後はもっと幸せでありますように。 end
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学校からの帰り、私は一人で歩いていた。 いつもはラブと一緒に帰るのだけど、今日は一人。 昨日、今となってはつまらない喧嘩をして、今朝も別々に登校して、 学校でも席は隣というのに、昨日の夜から一言も口をきいていない。 突然、遠雷がしたと思ったら、空が真っ暗になり、大粒の雨が降り出した。 朝の天気予報では降水確率が低かったから、傘は持ってきていない。 空を見上げると、雨はだんだん激しくなり、すぐに晴れそうにもない。 家まではそう遠くではないけど、今の状態で走って帰れば、 服はおろか鞄の中身まで、びしょ濡れになってしまうだろう。 近くに、シャッターが下りたお店があって、軒が深いから雨宿りに適している。 閉店して今は誰も住んでいないから、気兼ねすることもない。 びしょびしょに濡れながら走って、その場所まで辿りつくと、先客がいた。 ラブは私の姿に気付くと、顔を背けて私の方を見ないようにしている。 私はラブのいる反対側の端の、雨に濡れないぎりぎりの所に立った。 会話は全くなく、非常に気まずい。 ラブが何か話してくれれば、私も話すのに。 何か話そうと言葉を頭に浮かべても、宙に消えていく。 雨足はますます強くなって、しばらく止みそうもない。 その上、遠くに聞こえていた雷がこちらに近づいてきたらしく、 ピカッと稲光が走った後、大きな雷鳴が響く。 光と音の間隔が短いから、かなり近くで落雷があったみたいだ。 ラブの方を見ると、軒先の真ん中にしゃがみ込み、頭を押さえている。 雷の音がする度、ラブの身体が慄く。 「雷が怖い?」 私の顔を見てからかっていないと分かったのだろう。 ラブが「うん」と小さく頷いて返事をした。 「じゃあ、私が手を繋いであげる」 手を差し出すと、ラブが私の手を握ってくる。 ラブの手は震えていて、私も握り返した。震えが止まるように。 どのくらいそうしていたのか。 気がつくと、日差しが戻り、雨足が弱まっていた。 「雨、上がったね」 「うん、上がった」 雨が止んで、もう雷の心配もないのだけど、どちらも繋いだ手を解こうとはせず。 「家に帰ろっか」 「うん」 私達は手を繋ぎながら、雨だまりが出来た道を歩き出した。 了
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2月14日はそう、〝バレンタインデー〟で御座いました。 BVさん、JIBさん、恵千果さん、由美っちさん、磐丸さん、十和さん、職体さん改めSLさん、 一路さん、生駒さん、黒ブキさん、SABIさん、ご参加頂き本当にありがとう御座いました! 僭越ながら保管屋も投下致しました。 職人で無い方も投下していただき、本当にありがとう御座いました。 専用カテゴリーに保管してあります。 クローバーのバレンタインは甘いのか、苦いのか?読むか読まないかは貴方次第w
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同い年とは思えないわ…。 読者モデルとして、華やかな舞台に立っている彼女。 着こなす姿も振舞いも、全てが〝完璧〟 頬杖をついて私は、美希が掲載されているティーンズ雑誌を読みふけっていた。 どうすれば美希みたいな女性になれるのだろう。 率直な気持ちだった。 すっかり生活にも慣れ、欲が出てきたのかもしれない。 それは ―――女性――― としての目覚めだと把握するのに、さほど時間はいらなかった。 少女から大人へと変革する年頃。 14歳。 恋。 美希が掲載されている雑誌をしまい、国語辞典を開いてみる。 検索するのは〝恋〟 (1)異性に強く惹(ひ)かれ、会いたい、ひとりじめにしたい、一緒になりたいと思う気持ち。 「―に落ちる」 検索した内容をノートに書き写す。 そしてふと、考えてみる。 書き写した字を消していくと 異性に強く惹(ひ)かれ、会いたい、 「―に落ちる」 と言う言葉が残った。 自然と心の中で呟く自分がいて。 ――美希に強く惹かれる、会いたい―― 「恋に落ちた」と。 温かい気持ちが私を包み込む。 今頃、彼女は何をしているのだろう。 窓から見る外の景色はすっかり秋めいて。 入れておいた紅茶をそっと口へ運ぶ。 いい香りがする。心も落ち着く。 マグカップを両手で押さえ、胸元に近づける。 そうすれば美希に近づける気がして。 「これ、アタシのオススメなんだ!」 「紅茶?」 「そう。飲む前の香りと、飲んだ後に伝わってくる香りが違うの。」 「不思議な飲み物なのね。」 初めて二人でお買い物した時、帰り際に記念と言ってプレゼントしてくれた紅茶。 教えてくれた通りにお湯を注ぐと、凄くいい香りがして。 紅茶を飲み干すと、ゆっくりとした時間が私を招き入れる。 ベッドに横になり、瞳を閉じる。 「また誘ってもイイ?」 「え、えぇ。私なんかで良ければ…」 「なんかって言い方おかしいわよ。」 「……」 「せつなじゃなきゃダメなの。」 脳裏に焼きついて離れない彼女の言葉。 一人になってから気付いた 恥ずかしさ。 そして、―――ときめき。 リンクルンにはまだ誰にも見せていない画像があって。 そっと口づけをしてみる。 私、顔真っ赤だろうな…。 そう思いながら、晩御飯まで少しばかり眠る事にした。
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頭に木霊する美希の声。震える怒声。痛々しい泣き声。底冷えする皮肉。 そして、すべてを諦めたような力の無い呟き。 強く優しく、物分かりの良い美希しか自分達は欲していなかったのだろうか。 励ましてもらった。相談に乗ってもらった。気持ちをぶつけさせてもらった。 ただ、黙って側にいてくれた。 いつだって美希はラブの、祈里の、せつなの気持ちに寄り添おうとしてくれていた。 美希にどれだけ救われたか。数え切れないくらいなのに。 それでも、心の隅にあった冷めた感情。 所詮、当事者ではないのだから。 外側から眺めているだけの部外者だから。 魂に牙を立てられ、血を啜られるような思い。 心を握り潰され、毟り取られるような痛み。 美希には分からない。 自分達の気持ちなんて理解出来ないだろう。 そう、殻の外に美希を閉め出してはいなかったか。 「あたしね、思ってた。思おうとしてた。一番ブッキーが悪いんだって」 「うん…」 「それで、一番馬鹿なのはあたし」 「………」 「一番傷付いたのはせつな。それで、それでね。美希たんは……」 「…………」 「……関係ないって…。こんなゴタゴタ、美希たんには迷惑なだけだろうって…」 「……うん…」 「ブッキーさっきから、うん、しか言ってない」 「うん……」 ひっぱたいてくれた美希の熱い手のひら。 優しく髪を撫でてくれた綺麗な指。 毅然と叱ってくれた声。 何も言わず包み込んでくれた温かな膝。 どうして忘れていられたんだろう。 「ねぇ…美希たん、何か用があったんじゃないのかな?」 突然訪ねて来たわけではあるまい。 自分達の物思いに耽り、外の気配に気付かなかったのは迂闊としか言いようがないが 常の美希なら来る前に電話なりメールなりしそうなものなのに。 ラブの言葉に祈里は痛みを堪えるような顔になる。 「…約束、してたの……」 項垂れ、祈里は背中を丸める。 「美希ちゃんの部屋でね、一緒に勉強しようって…。」 「へ?じゃあ、なんで……」 自分を部屋に上げたのか、そう言いかけてラブは口をつぐんだ。祈里の自嘲があまりにも深そうで。 「忘れちゃったの。ラブちゃんの顔見たら」 ラブが訪ねて来てくれた。会いに来てくれた。例えどんな理由でも。祈里を詰る為だとしても。 ラブが自分から祈里の元へ足を運んでくれた。 舞い上がった。有頂天になったとすら言える。そして。 そして、美希とのささやかな約束など一瞬にして頭から消し飛んでしまった。 「…ブッキー…」 祈里は鞄に手を伸ばし、中を探る。底の方まで落ちていたリンクルン。 チカチカと点滅する光を見て、祈里は一層苦し気に顔を歪める。 何度着信があったのだろう。メールも何通も来てるに違いない。 多分、そこにはいつまで待っても現れない祈里を心配する美希が沢山いる。 この間の買い物。せつなとのやり取りを美希に詳しくは話していない。 それでも美希は何かあったのだと察してくれてる。 ずっと気にかけてくれていた。 電話で、メールで、放課後待ち合わせてお喋りして。美希は無理に聞き出そうとは決してしない。いつも祈里から話すのを待ってくれる。 今日だってきっとそう。 少しでも祈里の心が晴れるように何時間でも付き合うつもりだったに違いないのだ。 連絡も入れず現れる気配の無い祈里にどれほど気を揉んでいたのだろう。 何かあったのかと心配し、出ない電話や返信の無いメールに焦れて。 それならいっそ、と直接訪ねて来たのだろう。 そして、その結果がこれ。 聡い美希は瞬時に理解したに違いない。 祈里は美希の顔を見るまで、いや、顔を合わせた後でさえ約束の事なんてすっかり忘れていた事に。 美希に詫びる事すらせずにひたすら言い訳を並べ、ラブを庇う姿に どれほどやるせない思いをしただろう。 リンクルンを開く勇気がでない。 メールに溢れているであろう祈里への労りと思い遣り。 それに対峙するには今の自分は愚かすぎる。 その美希の思いを直視する資格など無いように思われた。 「…ねえ、ラブちゃん…」 泣き笑いの形に顔を歪めて祈里が問う。 「わたしって、昔からこうだったのかな……?」 結構、良い子のつもりだった。 少し前なら先約があるのを忘れるなんて考えもしなかった。 学校でだって目立つ存在ではないけど真面目にやってて友人だっている。 獣医を目指してるんだから勉強だって頑張ってる。 誰かの役に立ったり、人に喜んでもらう事が自分の喜び。 せつなの事は。せつなにしてしまった事は、そんな自分がおかしくなってしまったからだと思っていた。 「ラブちゃん、わたしね。せつなちゃんが好きで。好きで好きで好きで好きで………」 狂ってしまったのかと思っていた。 自分の中にあんなにも激しい感情があるなんて信じられなくて。 体を突き破りそうな激情を持て余して。 他の事は何も考えられなくなって。 苦しくて、苦しくて。無理矢理にでも奪えば、解放されるのかも知れない。 だから……。 「でも、違った。全部、何もかも…間違ってた」 やった事も、言った事も、今までも、たった今だって。自分が良い子だったって思ってた事も。 きっと昔から我が儘で自分勝手な人間だったんだ。 自分のやりたい事、欲しいもの。手に入れる為ならどんな事だって出来る卑怯者だったんだ。 恵まれてただけ。 恵まれ過ぎてて、自分がどんな人間か直視せずに済んだだけだったのではないのか。 いつだって欲しい物は手の届く場所にあった。 何かが欲しいと思う前に与えられてた。 両親は躾には厳しく無駄な贅沢はさせなかったが、お金で買える物には元々それほど執着が無かった。 物も愛情も空気のように体を包んでいるのが当たり前で、誰もがみんなそんなものだと思っていた。 自分は与える事に喜びを見出だす人間。 大切な人に笑顔になって貰うのが何よりの幸せ。 そう、信じて疑いもしなかった。 でも違った。 今までの自分を思い返す。 誰かの幸せの為に痛みを堪えて宝物を差し出した事は無かった。 欲しくてたまらない大切な何かを誰かに譲った事も無い。 もし自分の一部とも言えるほどかけがえのない物を手放しても、 それを手にした相手が喜んでくれるなら構わない。 そんな風に思えただろうか。 「無理だよね。だから…こうなってる…」 自分の考えに祈里は茫然とした。 いつだって人に与えていたのは手放しても惜しく無いもの。 身の回りに有り余るおこぼれを上から投げ落として悦に入っていただけではなかったか。 感謝の言葉や眼差しを心地よく浴びたいが為に施しを与えていただけではないのか。 恐ろしい。足元がガラガラと音を立てて崩れていく。 どれほど傲慢な笑顔を振り撒いていたのか。 自分では労りねぎらうつもりで掛けた言葉は本当に相手に届いていたのだろうか。 何もかもが偽りに彩られている気がした。 これっぽっちも優しくなかった自分自身。 せつなの言った通りだ。 馬鹿で、傲慢で、欲張りで。しかもそれを今の今まで実感してはいなかった、残酷なほど幼い自分。 そんな自分にせつながくれたのは、途方もなく甘く優しい罰。 笑顔で側にいる事。 せつなの幸せを見届ける事。 やっと分かった。情けないほど自分を甘やかしていた。 一度だって、本気で自分をどうしようもない人間だと思った事は無かったのだから。 せつなは、そんな祈里でも何とか乗り越えられるだろう甘い甘い償い方を教えてくれたのだ。 せつなの為ではない。祈里が罪に押し潰されてしまわない為に。 「どうしてそう極端なのかなあ……」 よっこらしょ、とラブが祈里の横に腰掛ける。 青い顔で項垂れる祈里の頭をコツンと小突いた。 「天使か悪魔か、どっちかでなきゃいけないってコトないでしょ。 誰だってその間でふらふらしてるもんじゃない?」 「……でも………」 祈里はゆるゆると首を振る。 確かにそうだ。誰にだって天使のように優しくなれる時、悪魔のように残忍になれる時がある。 それでも、と祈里は思う。 いざという時。何か危機や困難に直面した時、天使か悪魔かどちらかにしかなれないなら、 ラブは間違いなく天使になる事を選べるだろう。 大切な人の為に。もしかしたら、見ず知らずの他人の為にさえ我が身を 投げ出せるのがラブだと知ってる。 でも自分はどうだろう。少し前までなら、自分だって天使になれると無邪気に信じられた。 でも、今は…。 息が苦しい。自分が身勝手で利己的な人間だと認めるのがこれほど痛いと知らなかった。 苦痛から逃げ出す人間だと思われたくない。 でも、初めて愛した人を、姉妹のような親友達を裏切り傷付けた自分を 真っ当な人間だと考えるのを己の心が拒んでいた。 お前に愛や信頼を口にする資格は無いのだ、と。 「ねぇ、ブッキー。あたしそんなにイイコじゃないよ…」 ラブはポリポリと頭を掻きながら溜め息をつく。 「今日だってさ…別に、せつなのカタキ取ろうとか、そんなんじゃない」 だって、そうでしょ?こんな事、せつなが喜ぶ訳ない。 余計に苦しませるだけだって考えなくたって分かるもん。 それなのにさ…… 「恐かったんだ、あたし」 「……恐かった…?」 「なんか、色々薄れていくのが……」 辛かった。悲しかった。痛くて苦しくてどうしようもなかった。 ただ息をして、生きていくのすら難しい気がしていた。 それでも時間が経つにつれ、少しずつ傷が癒えて行くのが感じられた。 せつなの笑顔に祈里が応え、美希が側にいてくれる。 同じ場所で笑っている自分がいる。楽しいと感じている自分がいる。 何もかも無かった事にしてしまいたい。 また四人で笑いながら過ごして行きたい。 このまま月日が流れ、すべてが遠い過去になってしまえば……。 「ホントは…そうなれば一番いいのかも。ゆっくり傷を治して、ゆっくりお互いを許し合って…」 でも、それは嫌なのだ。とラブは拳を握り締める。 悪夢にうなされるせつなを見る度に、せつなの中に残った祈里の影を感じてしまう。 苦しむせつなを見るのが辛いだけではない。 悔しいのだ。 ずっと大切に守っていきたかった。 手のひらにくるみ込み、胸で温めてきた宝物。 それに理不尽な力で大きな傷を付けられた。 その傷さえ愛しい、そう思えるほど大人にはなれなかった。 穏やかに過ごす四人での時間にふと痛みを忘れている自分に気付く。 束の間の安息に、もしかしたらこのまま。このまま、元に戻れるかも知れないと淡く胸が温まる。 それでも目の前の傷はそれを忘れさせてくれない。 一瞬でも忘れようとした自分が許せなくなる。 忘れたい。忘れられる訳がない。 許したい。許したくない。 戻りたい。出来るはずない。 もし奇跡が起きて時間を戻せたとしても…。 また同じ事が起こるかも知れない。 だって心は変わらないのだから。 どれほど時間を遡ってもせつなを好きな自分は変わらない。 祈里だってそうだ。 そしてせつなも。きっとまた好きになってくれる。 そう、躊躇うことなく信じられるのに。 なのに立ち止まったまま足掻いている。 せつなは血を流しながらも、その傷を抱いていくと決めたのに。 共に歩む為に前を向いているせつなが眩しかった。 せつなが選んでくれた。 私はあなたのもの。そう言ってくれた。 相応しくありたいのに。 薄汚れた嫉妬にもがく姿なんか見せたくないのに。 せつなと祈里が悪夢と言う名の逢瀬を重ねている。 そんな風に感じる自分が堪らなく矮小でいたたまれないのだ。 「馬鹿だよねぇ……。せつなはあたしが好きって言ってくれてるのに。 せつなの隣にいて恥ずかしくないようになりたいのに」 やってる事は逆ばっかだよ。 せつなの中の祈里は消せない。 それなら祈里の中のせつなを真っ黒に塗り潰してしまえばいい。 せつなと同じ目に。別の存在を祈里の奥深くに無理やり捩じ込んでしまえば…。 「何でだろうね。やっちゃった後でないとどんだけ馬鹿か分からない…」 多分、それも間違い。 やってしまった後でも理解なんて出来てないんだろう。 分かったつもりになるだけ。 美希を、傷付け蔑ろにしていた事を今まで気付けなかったように。 「あたしさあ、ブッキーも好きなんだよねぇ…」 「………ラブちゃん…」 「ブッキーもあたしが好きでしょ…?」 コクリ、と頷く祈里を見て、あんなことされたのに、とラブは苦笑いする。 でも本当にそうなのだ。 きっと、途中で止めて貰えなくても。この先悪夢にうなされたとしても。 ラブを嫌いになる自分は想像出来なかった。 羨ましくても、妬ましくても、ラブさえいなければ、とすら思った事はなかった。 「困ったよねえ。恋敵なのに」 「……せつなちゃんも、そうなの…?」 だから、これほどまでに庇ってくれる。 おずおずと尋ねる祈里にラブはあからさまに嫌な顔をする。 この程度の事で一緒にするな、そう顔に書いてあるのがありありと読み取れた。 また不用意な言葉を口にしてしまった事に祈里は身を縮める。 「せつなはブッキーが好きだよ。あたしの為に許さないだけ」 「…………………」 「あたしが…あたしが、ブッキーを許してしまわないように頑張ってるの知ってるから……」 「許して…しまわない、ように……?」 「……ホントに、分からない?」 くしゃくしゃになった表情を隠すようにラブは抱えた膝に顔を埋める。 祈里は頭を振りながら滲んできた涙を必死に堪えていた。 分からないはずはない。 ずっと前から分かっていた。 ラブもせつなも許してくれている。 祈里自身が自分を許せないから罰を与えてくれてただけ。 自分よりもずっとずっと傷付いているはずの二人が、更に我が儘に付き合っていてくれてただけなのだ。 想う相手を諦める。それがどれほど難しいか分かるから。 目の前で微笑む愛しい相手に指一本触れられない。 自分ではない、他の誰かの腕の中にいる想い人をただ見ているだけ。 それがどれほど心を引き絞られるかが分かるから。 ラブにはせつながいる。 せつなにはラブがいる。 それだけで、他に何もいらないから。 だから、すべてを許して痛みを堪えてくれていた。 堪えようと耐えてくれていた。 そして、少し零れ出してしまったのだろう。 荒れ狂う思いの塊をせつなにぶつける訳にはいかない。 それならば自ずと向ける相手は決まっている。 祈里には、傷付いても耐える義務があるのだから。 「ねえ…あたし達、もっと大人だったらこんな風にはならなかったのかな…。 もっと大人だったら、こんな馬鹿な真似、せずに済んだのかな…」 何の覚悟も出来ていなかった。 痛みを引き受ける覚悟も。 大切な人を傷付ける覚悟も。 どんな結果であろうと受け入れる覚悟も。 ただ何もせず、流れに身を任せる覚悟すら。 見苦しく足掻き、自棄になって刃を振り回す。 後で更なる後悔が待っているとも知らずに。 「美希たんに、謝ろっか。二人で…」 「……でも…」 今さら謝罪に意味なんてあるのだろうか。 (アタシは許さないから。) (これ以上、失望させないで。) 美希の凍えた声が頭を巡る。 裏切ってしまった、どんな時も真っ直ぐに手を差し伸べてくれ続けた人。 美希の瞳から放たれた氷の矢。 そんな視線を幼馴染みに向けなければいけなくなった美希に詫びる言葉なんかあるとは思えなかった。 「許してもらえなくても、さ。悪い事した時は謝らなきゃ」 「ラブちゃん…」 それにね、謝ってもらいたいもんなんだよ。許す、って言ってあげられなくても。 はぁ…。と、深く溜め息をつくラブを祈里は横からそっと見つめる。 ラブは何度こんな溜め息をついて来たのだろう。 「ごめんなさい」 「あたしにはもういいよ。さっき言ってもらったし」 「分かった」 「ああ、でも許した訳じゃないからね」 「うん。それも分かってる」 許す。とは言ってはいけない。 それはラブの意地なのだろう。 祈里は何となくそれを感じ取り、そのラブの気持ちが何故か嬉しかった。 祈里が叶わなくともせつなを想う。 その想いが続く限り、ラブは祈里を許すとは口には出さないつもりなのだ。 許しを請う為に謝るのではない。 少しでもマシな人間になりたいから。 的外れな謝罪しか出来ないかも知れない。 美希やせつなの気持ちなんて分かっていないのかも知れない。 それでも、言葉にしなければならない。 伝わらなくても。撥ね付けられても。 相手を思い、気持ちに寄り添う努力を放棄する言い訳なんてどこにもないのだから。 「ラブちゃん、わたし、謝りたい。美希ちゃんにも、せつなちゃんにも…」 初めて、そう口にした。 みっともなく掠れた声。怯えを隠せない震える唇。 謝罪はいらない。許したくない。せつなには、面と向かってはっきりそう言われた。 やってしまった事を謝るのではない。 余りにも愚かだった自分に気付けなかった事を謝りたい。 せつなが好き。多分、これからも。 美希が大切。それなのに守ってもらって当たり前になっていた。 せめて罪を償うに足る人間になりたい。 甘え、頼り、寄り掛かったままその事に気付きもしない。 そんな人間のままでいて良い訳がない。 急に強くはなれないのは分かっている。 でもせめて…自分の弱さや愚かさから目を背けずに。 一つ一つ、ほんの少しずつでも気付いた事を糧にして行きたい。 もう一度、友達と呼んでもらえるように。 み-362へ
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今日は体育祭。借り物競走に出場するせつな。 せつな(さあて、何が書いてあるのかしら) 折られた紙を広げると、そこには見覚えのある字で「2年 桃園ラブ」と書いてあった。 せつな(これって…) せつなが辺りを見回すと、自分に向かって大きく手を振るラブの姿。 せつな(もう、ラブったら…) せつなが恥ずかしい友人の方に近づくと、その子は嬉しそうにせつなの手をとった。 ラブ「行こう、せつな」 せつな「もう。これ、あなたの仕業ね」 ラブ「えー?なんのことー?」 せつな「とぼけたって、無駄なんだから」 ラブ「エヘヘー、バレちゃったか」 せつな「あれだけ分かりやすかったら、当然よ」 らぶ「アハハハハ…///」 せつな「フフ…///」 二人は手をつないで笑いながら、ゴールテープを破るのだった。
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どうしても耐えられなかった。本当は笑顔で送り出してあげたかった。 「アタシ、蒼乃美希は中学校を卒業したら海外留学します!」 突然のメールに戸惑い、その後の記憶が無い。むしろ記憶を消してしまいたかった。 「みんなの応援、ちゃんと受け止めました!アタシ、完璧になって帰ってきます☆」 あたしは呆然と言葉を並べて返信した。みんなは温かいメッセージを送ってるんだろうな。 ~数日後~ ラブ「本当に行っちゃうんだ・・・。寂しくなるね。」 美希「どーしたラブ!?応援してくれてるんじゃないの?」 ラブ「応援してるよ・・・。美希たんの夢を叶えるためだもん。」 (全然嘘。嘘つき。行かないで欲しい。離れたくなんかない。) 美希「の、割りには顔が笑ってないわよー。」 そう言ってあたしのほっぺをツンツンしてくる。 ラブ「ぐすん。。。 ャダ。行っちゃ・・・ャダよ。」 美希「え?何?聞こえなかった・・・」 ラブ「やだよォォォ!行っちゃやだ!!ずっと傍にいて欲しいよォォォ!!!」 あたしはありったけの声でワガママを言った。叶う訳なんかないのに。 美希「ちょっと、ラブ!どうしたの?」 ラブ「好きな人がいなくなるなんてあたし、生きていけないよ・・・」 美希「好きってアタシの事を?」 ラブ「うん。。。」 思いっ切り泣いてた。今思うと恥ずかしいくらいに。 美希「そっか。ラブはずっとアタシの事応援してくれてたもんね。小さい頃 からずっと。そして今でも・・・」 ラブ「うん、、、」 何とか頑張って笑顔で美希たんの顔を見つめた。見つめて欲しかったの かもしれないけど。。。 美希「ラブに涙は似合わないわ・・・。ほら、拭いてあげるから。」 そう言って美希たんはあたしの涙を拭いてくれた。青いハンカチ、香水の いいニオイがした。 ラブ「ほんとに行っちゃうの?」 美希「こんな可愛い子を置いて行けると思う?そんなのアタシらしくないわ♪」 美希たんはそっと抱きしめてほっぺにキスしてくれた。 美希「アタシを幸せにしないと許さないんだから。それも完璧にね!」 ラブ「美希たん・・・」 あたしにはやっぱり笑顔が一番似合うみたい。ほらね、幸せゲットだよ☆
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昼間の日差しは、 秋とは思えないほど強い。 砂ぼこりが舞うグラウンドで、私は 赤い鉢巻きを締め直した。 短距離走のタイムが良かった私は クラス対抗リレーの最終走者に選ばれた。 「頑張ろうね!」 「練習通りに出来るといいな!」 気合いが入るみんなに対して、 私は、気が重かった。 リレーという種目は、初めて 体験するものだった。 他人と協力して走るなんて 考えたことも無かった。 当然、バトンの受け取りがうまくいく はずもなく、私は足を引っ張っていた。 私が、みんなに迷惑をかけている。 そう考えるだけで、私の体は 小さく縮こまってしまう。 そんな私に、チームのみんなは 夜まで練習に付き合ってくれた。 ラブも、家や通学路で 毎日、練習相手になってくれた。 号砲が鳴り、スタートした。 歓声が、急に大きくなる。 緊張する。 体が硬くなる。 頭に、次々と浮かんでくる。 バトンパスを失敗する光景。 転倒する光景。 落胆。 失意。 こんな気分では、うまくいくものも うまくいかない。 いけないとは思いつつ、 下を向いてしまう。 気が、さらに重くなる。 体操着のズボンのポケットに 何か入っている。 取り出してみる。 いつの間に入れられていたのか、 小さく折りたたまれた紙が2枚。 ゆっくり、開く。 「一緒に頑張ろうね!」 「めざせ1番!」 「いいとこ見せちゃおう!」 チームのみんなの字。 寄せ書きのようなメッセージ。 もう1枚。 「せつななら、できるよ! 精一杯頑張って、幸せゲットだよ!」 ちょっとくせのあるラブの字は、まるで 目の前で話しかけてくれているようだ。 顔を上げる。 砂ぼこりの中、必死で走り バトンを繋ぐ、みんなの姿。 前の人の思いを、胸に。 自分の思いを、次の人に。 立ち上がって、応援席を見る。 ラブと、目があった。 強い光を放つ瞳で、 ぐっと親指を立てている。 せつななら、頑張れるよ。 重い気持ちが、消えた。 心に、火が灯る。 スタートラインにつく。 他のチームが、次々と 私の横をすり抜けていく。 私に渡るバトンが、 近づいてくる。 前を見た。 自然に、スタートを切った。 手を、後ろに伸ばす。 バトンが近づいてくるのがわかる。 スピードが、シンクロする。 ファールラインぎりぎりで、 バトンが手のひらに触れた。 ぎゅっと握る。 弾かれるように加速する。 ワッと大きくなった歓声は、 すぐに後ろに飛んでいった。 みんなの思いが、 バトンに詰まっている。 全力で飛ばす。 追い抜く。 1人。 2人。 私のクラスの応援席に 近づいてきた。 大きな声援が耳に届いた。 「せつなちゃーん!」 「東さーん!」 「飛ばせー!」 ひときわ大きく聞こえる、 ラブの声。 「せつなぁ!」 「行けー!」 不思議な感覚を、味わっている。 全力で走っているはずなのに、 力が、まだ湧き出る。 心が、歓喜している。 体が、躍動したがっている。 もっと速く。 もっと速く! 限界を超えて、加速する。 体が、ぐんと前に出る。 息をしているのかどうかすら、 わからない。 前を走る人の背中が、近づく。 並ぶ。 張られたままの、 ゴールテープが見える。 まだまだ! もっと速く! 一気に、駆け抜けた。 かはっ、と、息を吐き出す。 足から力が抜け、私は トラック上に倒れ込んだ。 商店街を、夕日が 赤く染めている。 私とラブは、心地良い疲れを感じながら ゆっくりと歩いた。 胸元のメダルが、留め金に当たって カチンと音を立てる。 金色が、夕日を反射して まぶしい。 「いやぁ、すごいよ、せつな! あたし感動しちゃった!」 ラブが振り返り、自分のことのように はしゃいだ。もう何度目だろう。 僅差で、先頭をかわしきったらしい。 息があがったままの私に、 チームのみんなが次々と抱きつく。 耳をつんざくような歓声。 それで、はじめて優勝だと いうことに気がついた。 クラスの応援席に戻った私達は、 みんなにもみくちゃにされた。 チームのみんなも、クラスのみんなも、 ラブも、私も、笑っているのか 泣いているのか、解らなかった。 「ラブが言ってくれた通りだったわ...」 「ん?」 「応援してくれる人が居るから、 力が湧いてくる、って...」 ずっと前。 ナキサケーベの向こう側から、 ピーチに言われた。 「ありがとう、ラブ」 「うん...にはは...」 ラブが人差し指で ぽりぽりとほおを掻く。 「さ、早く帰ろ!今日はごちそういっぱいだよ!」 「ええ、そうね!私もうお腹ぺこぺこ」 私とラブは、家までもうひとっ走り することにした。